サラリーマンを続けた後、起業に至る流れはどのような感じだったのですか。

　社長になると言いながら、サラリーマン生活を約12年も続けました。僕はもう結婚し、子供もいたので、本来であれば一般論として起業創業が難しい環境でした。しかし、33か34歳の時には「起業したい」と真剣に考えだしました。僕のプランでは、既存産業で計画したら上手くいかなかったので、今から新しい仕事を作らないといけないと思いました。

　「新しい仕事って何だろう」というのを2、3年ずっと葛藤していました。すると、当時横浜の方で、ソーシャルビジネス、コミュニティビジネス、地域の課題をビジネスで解決しようという動きがあることを知りました。理解はできたけど、課題解決もままならなければ、そこに費用がつくのかと疑問に思いながら、県管轄のNPO団体の様子を見に行きました。その時、僕が関わった方がコーディネートは早いと感じ、ソーシャルビジネスやコミュニティビジネスの可能性をネットで調べました。そして、商店街は若者の動向を知らないし、若者は商店街を何も知らないということに気付き、若者と社会を繋げる活動を始めました。

　その後、神山のNPO法人グリーンバレーさんがワーク・イン・レジデンスという新規事業を始めるという新聞記事を見ました。「神山で起業しませんか」というフレーズを見て、すぐ理事長に会いに行きました。そこで、「若者と社会を繋げて、都会でも田舎でもない重なるニュートラルなコミュニティ、新しい村を作りたい」と自分の想いを伝えた時に、NPO理事長の大南さんに「やったらええんちゃうん」と言われたことが始まりです。

お子さんがおられる中で起業を決意されたということですが、奥様からの反対はありましたか。

　1回だけ反対されました。『子供のために何が残せるか』が僕の起業のモチベーションでしたが、奥さんにしてみたら、子どもの事を思うならサラリーマンを辞めるなという話です。しかし、最後には奥さんに「ほんとは起業したかったのにお前らのせいでできなかったと言われるのが嫌やから、あんたの好きにしていいよ」と言ってもらえました。

起業して困ったことはありましたか。

　当時は、いわゆるまちづくりや地域活性化という会社がなく、競争がなければ、成功すると思っていました。しかし、反対に仕事がないから競争がなかったのです。また、商品・サービスが目に見えないから価値を分かってもらえませんでした。新しいコミュニティを作るということに対して、そのことが「大事だね」とか「良いことをしているね」という人は一定数いましたが、経済的な価値を見出してくれる人はいませんでした。形がないことに価値があるということを伝えることが、大変でした。

どうしたら、コミュニティビジネスに経済的に価値があると認められるのでしょうか。

　継続は力なり、実績です。実績のないところには人は集まりません。物事の本質を見極められる人は、感覚的に2％です。いわゆるイノベーターといわれる人、その2％の人が価値を分かってくれたら事業は成功します。イノベーターがいて、10％程度のオピニオンリーダーのような影響力のある人に認められていく感じです。その結果、各会社が人材を育成するときに、リレイションで研修したいとか、人材コンサルティングをしてもらいたいという会社は増えてくるのではないだろうかと考えています。

　ここからの10年に関しては、目に見えないことに値段がついていくので、それに価値がないという人もいるとは思うけれど、価値があるという人もいると確信しています。最初は、関係性を作る会社で始めてきましたが、関係性の1つが人材育成でした。育成というか共育ですね、『未来を創る若者を地域と共に育む』、地域企業も若者との向き合い方が分かるので成長し、若者も地域で放置されることによって、自分で考えて創造し、行動できるようになります。10年前は言えなかったけど、リレイションの仕事は、地域のマネジメントと若者の教育マネジメントを同時に行うことです。

　次の記事では、祁答院さんの将来のビジョン、成功の秘訣についてお聞きしました。

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